sugar_noname’s diary

イカとシャドバについて。

『中身を拝見』

著:諏訪湖の人

 私は整理整頓が苦手だ。部屋は下着やペットボトルがだらしなく散らかっており、冷蔵庫などはもってのほかである。何故私がそんなことを急に考え出したかと言うと、たった今放送されていたバラエティ番組を見ていたからだ。
内容は、町で出会った主婦に、「お宅の冷蔵庫の中身、拝見してもよろしいですか」と、今をときめく女子アナが街頭で問いかける。そしてOKをもらった人の家へついて行き、冷蔵庫の中身を見せてもらうという内容である。これのどこが面白いのかと言う話だが、案外興味深い。上品そうなマダムの家の冷蔵庫は、図書館みたいに色んな国の調味料や先日の作り置きなんかがキッチリと並べられており、非の打ちどころのない冷蔵庫になっている。一方、少しだらしなさそうで、服の襟もすこしよれている主婦の家の冷蔵庫は、消費期限がとっくに過ぎた食料品だったり、腐りかけの生鮮食品なんかが出てくるのだ。
狭くて限られたスペースを自身の趣味趣向でカスタマイズする「冷蔵庫」と言うものは、人間的な性格が顕著に表れる場所ではないかと思う。
そのため、もし、冷蔵庫を見られるのが私だったら…と考えてはゾッとする。真空パックだからと油断していつまでも食べずに結局賞味期限が切れてしまった漬物、まだ残りがあるのにも関わらず、鍋をするたびに買ってきてしまうポン酢、健康に良いらしいからと買ってきた、好きでもないリンゴ酢など、私の性格がそのまま現れていしまっているからである。
 一日に一回は必ず開ける冷蔵庫だが、掃除しようと言う気は起きない。手前にある飲み物や食べ物を急いで取り、奥にある混沌に目を極力向けないようにしているからだ。しかし、いい加減整理すべきかと思い立ち、冷蔵庫を整理してみる事にした。
案の定、冷蔵庫の中からは、「カレーに入れると美味しい」と聞いて買った数年前のジャムや、緑色になった刻みのりなどが出てきた。自分のだらしなさに嫌気がさしてくる。魚の干物なんかは、もう冷凍庫に入ってパサパサになってしまっている。干される事ですでに一度死んでいるのに、食べ物としてももう一度死んでいる。なんと気の毒な。
どうして絶対に食べないものを冷蔵庫に入れっぱなしにしてしまうのだろう。流石に干物やジャムは捨てた。そんな中、消費期限がまだ3日しか過ぎていないヨーグルトが出てきた。これはまだ食べられるだろうと思って取っておいたが、今考えると、ああいう行為の積み重ねが、現在のような冷蔵庫を再び構築していくのだろうと内省した。
「流石にもう捨てちゃってもいい」と言うようなところまで無意識に育て上げないと捨てられないのかもしれない。「絶対にあったらダメだ」となるくらいまで限界が来ないと思い切りがつかない。
翌日、凝りもせず冷蔵庫の中に入る事になるであろう食料品を買いに出かけていると、遠くに見知れた顔が見える。あのグラボブで、癖のない、青がかった髪はあしぃだ。向こうが寮に入る事になってからは、顔を合わせる事も少なくなっていた。最後に会ってからもう一週間空いている。日曜なので、めかし込んでお出かけだろうか。声をかけようかと思ったが、よく見ると隣に女性を連れている。私よりも華奢で、あしぃより身長の低い女の子だ。後輩だろうか?あれこれと考えを巡らせていたら、向こうがこちら側へ歩いてきた。私は、そんなことをする理由など特に無いのに物陰に隠れてしまった。雲隠れなんて良い事など一つも無いのに。
町での思わぬ遭遇から一週間ほど経過した。本日の夕飯はあしぃを家に招いて、二週間ぶりに二人で食事である。奮発して紅ますなんかを買ってしまったが、冷蔵庫の肥やしにはならない。料理をしている間、お互いの近況を報告し合っているうち、ふと先週の事を思い出して尋ねてみた。
「二週間ぶりだけど、先週の日曜とかって何してた?」
あしぃは見ていたテレビから目を離すことなく答えた。あしぃは、嘘をついた。
一度俯瞰して見てみないと、現実ははどのようなものなのか案外分からないものである。一度さっぱりさせてみるのも良い事かもしれない。あれから冷蔵庫の方には、スイカが入るようになった。